CMYKの「K」

 DTP黎明期の1990年代の話ですが、CMYKの「K」って何の略?という話になって、たくさんの人に聞いたが、答えは正しくなかった。何の頭文字?と聞いているのに、一番多かったのは BLACKの「K」だという答だった。それは疑問・質問が伝わっていない、聞いているのは「何の頭文字?」なのに「末尾」。
 しまいには黒の「K」だと言い出す。え、日本語混じるの? である。
 インキメーカー数社にも問い合わせたが、明確な答えはなかった、というより曖昧。
 可笑しかったのは某印刷資材メーカーの技術者の答えだった。こちらから、BLACKの「K」では頭文字ではないのでは? と聞いたときの答えが「料理のさしすせその(そ)も(味噌=みそ)の終わりの字だろ!」と自信ありげに答えられたのには内心笑ってしまった。<後日談:参照>

 当時の技術書にも、なぜ印刷で黒が必要なのかということしか書いていなかった。その後に唯一、玄光社だったと思うが写真系の技術書に「キープレート」と書かれていた。実は学生時代のリトグラフ(石版画)・銅版画の経験でで「キープレート」という事はうっすら記憶にあったので、確認するために聞いていたのだが、この顛末であった。
 この話はその当時の自分が出していたメールマガジンに書いた…(関係者に差し障りのないように)書いていました。
 まだ2000年になっていない頃、愛知のラジオ番組の方から、この「話の内容」を使って良いか?という許諾の連絡が来たのには、少し驚いた記憶がある。
 今はどうかと調べてみたら、今出ている本にはきちんと「キープレート」と出ていて安心しました。

CMYKの「K」は、K:Key plate(キープレート/黒)の略です。

この基準となる版に通常「黒」のインクが使われるため、CMYKのKは黒を意味するようになりました。

なぜ「Black(B)」を使わなかったの?

 もし「B」にしてしまうと、Blue(青)と混同してしまうため、それを避けるために「Key plate」のK(あるいは一説に「Key tone」のK)が採用されたと言われています。

  • C:Cyan(シアン/青緑)
  • M:Magenta(マゼンタ/赤紫)
  • Y:Yellow(イエロー/黄)
  • K:Key plate(キープレート/黒)

デザイン・印刷業界の専門用語の由来

ルビ(ふりがな)

  • 由来:イギリスの「宝石」のサイズ
  • 意味:漢字の読み方を示すために振る小さな文字。
  • ストーリー:かつてイギリスの活版印刷では、活字のサイズごとに「ダイヤモンド(4.5ポイント)」「エメラルド(6.5ポイント)」といった宝石の名前をつけて呼んでいました。その中に「ルビー(5.5ポイント)」というサイズがあり、日本の印刷職人がふりがな用に使っていた「七号活字」の大きさとほぼ同じだったことから、職人たちが「ルビ」と呼ぶようになりました。

カンプ

  • 由来:英語の「comprehensive(総合的な)」
  • 意味:デザインの仕上がりイメージをクライアントに確認してもらうための見本。
  • ストーリー:英語の「comprehensive layout(総合的にレイアウトされた見本)」を日本のクリエイターたちが縮めて「カンプ」と呼ぶようになりました。キャンプ(Camp)とは関係ありません。

(ゲラ刷り)

  • 由来:15〜16世紀の「ガレー船(奴隷船)」
  • 意味:校正(修正チェック)をするための、試し刷りの紙のこと。
  • ストーリー:活版印刷の時代、拾い集めた活字を一時的に並べておく細長い木箱(皿)が使われていました。この木箱の形が、当時ヨーロッパで使われていた細長い木造の戦闘船「ガレー船(galley)」にそっくりだったため、英語で「ギャリー」と呼ばれるようになり、それが日本で訛って「ゲラ」になりました。



後日談

 「料理の『さしすせそ』の『そ(味噌のそ)』のように、終わりの文字や途中の文字を強引に頭文字(略語)として使うこと」は本当にないのか調べたら、英語にもありました。それだけでなく、英語圏ではかなり頻繁に使われるユーモアやテクニックの一つのようです。
 英語では、このような頭文字の言葉遊びや暗記法(語呂合わせ)を「Mnemonic(ネモニック)」や「Backronym(バクロニム)」と呼ぶようです。

 CMYKと同じ「混同を避けるため」の文字選び

CMYKの「K」が「Black(黒)」の「K」であるという説(※正確には印刷の基準となる版「Key plate」ですが、結果的にBlackを指す)と同様に、他の単語と被るのを防ぐために末尾や途中の文字を使うケースです。

  • RGBとCMY「K」:もしBlackの「B」を使ってしまうと、光の三原色(RGB)の「B(Blue)」と重なって大混乱するため、あえて別の文字(K)が強調されます。
  • 株のシンボル(ティッカーシンボル):アメリカの株式市場では、企業の頭文字がすでに使われている場合、社名の最後や途中の文字をシンボルにすることがよくあります。

暗記のための強引な文字選び(料理の「さしすせそ」に一番近い例)

 学校の勉強や専門知識を覚える際、頭文字だけでは綺麗な単語(覚えやすい言葉)にならないとき、単語の最後や途中の文字を強引にピックアップすることがあります。

  • BEDMAS(計算の順序):数学の計算順序(カッコ・指数・乗除・加減)を覚える略語です。
    • Brackets(カッコ)
    • Exponents(指数)
    • Division(割り算)
    • Multiplication(掛け算)
    • Addition(足し算)
    • Subtraction(引き算)
      ※この中の「Exponents」を、子供たちが覚えやすいように「End(終わり)」のイメージや、別の地域では「POWERS(累乗)」の「O」をとって「BODMAS」と言ったりします。

あとから意味をこじつける「バクロニム(Backronym)」

 すでにある単語のアルファベットに合わせて、後付けでそれらしい単語を(最後や途中の文字も無視して)当てはめる手法です。

  • SOS(救難信号):よく「Save Our Souls(私たちの魂を救え)」の略と言われますが、これは完全な後付け(こじつけ)です。モールス信号で一番打ちやすい「・・・ ーーー ・・・(S・O・S)」の並びに、あとから意味を当てはめました。
  • SPA(製造小売):アパレル業界の「Specialty store retailer of Private label Apparel」も、元々はリゾートの「Spas(温泉・癒やし)」のような響きにあわせて、業界の仕組みを後から無理やり当てはめたビジネス用語です。

 このように、英語圏でも「覚えやすさ」「響きの良さ」「他の文字との重複回避」のために、単語の頭以外の文字を引っ張ってくることは日常茶飯事だとか、決めつけてはよくない!失礼しました。


「Kの由来」論争

2000年代半ばまで:俗説が最も信じられていた時代

 1990年代後半にMacやWindowsによるDTP(デジタル入稿)が爆発的に普及した際、IllustratorやPhotoshopを触り始めた一般ユーザーや初心者デザイナーの間で「K=BlackのK」「BだとBlue(青)と被るからK」という説明が、パソコンの入門書やパソコン教室などで「もっともらしい公式の解説」のように教えられていました。
 インターネットの黎明期(個人ブログや初期の解説サイト)でも、この俗説がコピペのように広がっていたのがこの時期だというのです。

2000年代後半〜2010年代前半:Wikipediaと印刷会社の「答え合わせ」

 2000年代後半になると、インターネット上の情報検証が進みます。Wikipediaの「CMYK」の項目などでも明確に「BlackのKやKuro由来とする説明は誤りである」と追記され、ネット印刷会社(グラフィックやプリントネットなど)が自社のブログやテクニカルガイドで、「印刷の基本知識:Kは実はBlackではない!」といったコンテンツを積極的に発信するようになりました。
 プロやハイアマチュアの間では、この時期に「Key plate(キープレート)」という正しい由来への上書きが急速に進みました。

2010年代半ば以降:SNSによる「トリビア」としての拡散

 Twitter(現X)をはじめとするSNSの普及により、「実はCMYKのKはBlackのKじゃないらしい」という話が、デザイン業界を超えて一般向けの「面白い雑学・トリビア」として定期的にバズるようになります。これにより、「KuroのKだと思っていた」「Blackの最後の文字だと思ってた」という人が間違いに気づく機会が決定的に増えました。


 「Kuro(黒)のK」は明確な間違いですが、実はデザイン・印刷の現場でも「現場のスミ(墨)やBlackという実態と、単語の語源(Key plate)を混同しているケース」は今でも非常に多いです。

 書籍によっては、海外のデザイン事典などを忠実に翻訳して「Key plate」と書く硬派な本(玄光社やMdNなどの専門誌・専門書に多い)がある一方で、
初心者向けのPhotoshop本などでは、分かりやすさを優先して「覚え方として、BlackのK、あるいはBlueと被らないためのKと覚えましょう」と、あえて割り切った書き方をしているケースも2000年代以降の書籍に散見されます。