亡き盟友・高野氏が、予備校時代に描いたデッサンです。


 当時の石膏デッサンは、美大入試の最重要科目でした。なかでも「メディチ」や「ブルータス」といった頭部のある石膏像とは違い、ベルヴェデーレのトルソは首や手足という「形の基準(アタリ)」に頼ることができないので難易度が高いものでした。
 しかもこのベルヴェデーレのトルソは、美術史において「頭部や四肢のない胴体だけの彫刻(トルソ)」を、不完全な破損品ではなく「それ自体で完成された至高の美」として評価する概念を決定づけた存在なので、思いはひとしおです。


「ベルヴェデーレのトルソ」Belvedere Torso の魅力は、頭部や手足が欠けた不完全な姿でありながら、圧倒的な生命力と肉体美を感じさせる点にあります。

 不完全さが生み出す強烈な存在感

  • 想像力をかき立てる造形: 首や両腕、両足の大部分がないことで、見る者は逆に失われた四肢の動きや全体のポーズを脳内で補い、よりダイナミックな物語を感じ取ることができます。

 圧倒的な筋肉表現とリアリティ

  • 躍動感のある肉体: 岩の上に腰掛け、身をよじらせている男性の筋肉や背骨のラインが、驚くほど正確かつエネルギッシュに彫り込まれています。
  • モデルの謎と諸説: 長らくヘラクレス像と考えられていましたが、現在ではトロイア戦争の英雄アイアスが自害する直前の姿であるという説などが有力視されています。

 巨匠たちへの多大な影響

  • ミケランジェロへのインスピレーション: ミケランジェロはこの彫像を深く愛好し、バチカン宮殿にあるバチカン美術館(ピオ・クレメンティーノ美術館)に収蔵された本作から多大な影響を受けました。システィーナ礼拝堂の天井画や、代表作『最後の審判』に描かれた聖バルソロメオなどの肉体表現にその痕跡が見られます。
  • 近代彫刻への影響: 19世紀以降、オーギュスト・ロダンらが「トルソ(胴体のみの彫刻)」を独立した芸術ジャンルとして確立する大きなきっかけとなりました。

画像出典:Wikipedia「ベルヴェデーレのトルソ」 / 写真:ウィキメディア・コモンズのファイル(CC BY-SA 4.0)に基づき利用(パブリックドメイン)